2020.09.29
"すばる望遠鏡HSCデータを用いた小惑星検出アプリCOIASの開発"
浦川聖太郎(日本スペースガード協会)
Abstract:
すばる望遠鏡HSC用の小惑星検出アプリケーションCOIAS(コイアス。Come On! Impacting ASteroids)の開発に
ついて報告する。これまで100万個に迫る小惑星が発見されている。これらの小惑星の軌道分布を調べることで、
同じような軌道要素をもつ「小惑星の族」や「小惑星の群」のサイズ分布や軌道の広がりが分かってきた。一方、
小惑星の直径は1km以下になると「ヤルコフスキー効果」と呼ばれる非重力効果の影響を受け、その軌道長半径が
増減する。これまで発見されたおよそ100万個の小惑星の多くは直径1km以上のメインベルト小惑星である。
つまり「ヤルコフキー効果」を受けるような小さな小惑星までを含んだ真の小惑星の軌道分布はいまだに分かって
いない。本研究では、すばる望遠鏡HSCのデータを用いて、直径300mクラス小惑星の軌道情報のカタログ化を
行う。これまでもすばる望遠鏡を用いた小惑星研究はなされてきた。しかし、位置情報については、軌道情報を
一元的に管理するMPC(Minor Planet Center)に効率よく報告されていなかった。そこで、GUI(Graphical User
Interface)を用いて視覚的に小惑星の検出、位置測定、測光、報告を行うアプリケーションCOIASを開発した。
試験的なデータ解析の結果、COIASを用いることで黄道面付近を観測したHSCの約16平方度のデータから、
約4100個の新小惑星候補天体を検出した。HSCの戦略枠データに適応させれば、発見数は数万に及ぶ。2023年頃
にはLSST(Large Synoptic Survey Telescope)の運用が開始される。HSCで発見された小惑星とLSSTで検出した
小惑星の軌道データがつながれば、直径300mクラス小惑星の軌道精度が格段に上昇し、後世の惑星科学の
レガシーとなるデータの創出が行われる。また、視覚的な操作が可能なCOIASを用いることで、研究者以外も
小惑星の発見体験を得られる。学生に対する教育的効果や市民天文学への波及効果も期待できる。